MORINOIE STORY #

何をするでもなく、
ひとところにいる。ただそれだけで。

2018.09.15

高層ビルを描いた車窓の風景が、次第に森の木洩れ日に包まれていく一時間半の道。四季を彩る並木道の先を左へ、車窓から斜めに見上げた高台に佇む三角屋根のモリノイエ。ここが二人の目的地。
CARスペースに車を停めて、森の空気を感じながら、ゆっくり階段のアプローチを登る。エントランスを開く。至るところまで見渡せる家の中へ入ると、愛猫が喜んでかけまわる。ダイニングに今夜のワインを置くと、二人はいつも決まってデイベッドに集まり、何をするでもなく、ただ、ひとところにいる。それだけでよかった。
いつからか思い描いていた、大好きな猫といっしょの週末小旅行が、ここにはありました。

「何もしなくていい時間が
ここにはあって」

“ここにいたら、何をするでもなく、お互いの顔を見合わせて、「いいね」と言い合うことがあって”
 
嬉しそうに話す純一さんに、恵さんも優しく言葉を重ねます。
 
“そうね。都会で過ごす週末は、何もしない日があると、家事と買い物の繰り返しに思えて、なんだか残念な気持ちになることも多かったですね。だけど、ここには何かしたいというよりも、「何もしなくていい時間」がありました。
いつまでもこんな風に、夫と猫と一緒の週末を過ごしたい。それが何よりの幸せと、私は思うようになりました”

「週末のランチはどこへ行こうかと
仕事から帰ってきては
二人して、そのことばかり」

“僕たちは、お互いのことを話すのが好きで、家に帰ってくると、職場の出来事をよく話すんです。だけど、モリノイエで暮らすようになってからは、もっと会話が増えましたね。週末のランチはどこのレストランへ行こうか?なんて。”
 
“そうね。平日からそんな話ばかりしているから、都会にいても、ここへ来ても、何だかいつも楽しいことを考えるようになりましたね。”

「私たちが森に暮らすなんて
とうてい無理なのかなと思っていたけれど......」

“僕たちが今の暮らしを思い描いたのは、軽井沢にある母の親友の別荘を訪れたことがきっかけでした。たしか真夏の8月だったと思います。涼しくて、ありのままの森が広がっていて、それまで感じたことのない心地よさに感動しました。それで僕が思わず「これを知らないまま、この先の人生を生きていくのか」なんて言い出して......。”
 
“私は、あの一言がどうしても忘れられなかった。
別荘をもつなんて考えたこともなかったから、私たちにはとうてい無理なんじゃないかなと思っていたけれど、まずは軽い気持ちで、軽井沢の別荘や土地を探してみることにしたんです。そしたら意外にも、二人で頑張って背伸びしたら、なんとかなるかもしれないとわかってきて、思い直すようになりました。”

「“森暮らし”に
私たちが求めているものを感じて」

“そしてある時、インターネットで見つけたというよりも、偶然出合ったのが「森暮らしをしてみませんか?」という問いかけでした。私はなぜか妙に惹きこまれて、「何か私たちが求めているものを汲みとってもらえるかもしれない」と感じて、土地探しの相談をしてみることにしたんです。”

“すると、僕たちが見てみたいと思っていた軽井沢の土地をまる二日間かけて、すべていっしょに見ていただけることになったんです。
軽井沢を見てきた深い知識と土地の読み方で、「この土地は一段上がった高台だから、窓の切り取り方によっては、鳥の目線の木々も、苔の大地も望めますね。ここなら車のヘッドライトに照らされることもなく、周りの家に囲まれることもないからいいですよ」と、家が建った時の視界や周辺環境のよしあしを想定してくださって。
ぼんやりと思い描いていた暮らしを、親身になって考えてくれる丁寧な姿に、相性の良さを感じた僕たちは、設計をお願いすることに決めたんです。”

“しばらくしてから、初めて模型をつくってくださった時には、鳥の巣箱のようなとてもかわいいモリノイエが出来上がっていて。私はもう、一目で惹かれました。
それからというもの、設計事務所の方たちのなんでも話せる柔らかい雰囲気に、家のことを相談するのが楽しくなっていき、気づけば、建築のことをもっと好きになっていましたね。猫のための住宅設計の本を読んだり、タイルを探しに行ったり。家が出来上がるまでの楽しい思い出になりました。”

「私たち二人にとって、
ちょうど良い森の暮らしがここにはありました」

“実はご提案していただいたプランでは、床面積が小さいのかなって心配だったんです。だけど暮らしてみると、私たちのモリノイエに大切なのは、広さではなかったと気がついたんです。
窓が切り取る緑の風景には、広い森に包まれたような心地良い開放感があり、コンパクトな佇まいには、どこにいてもお互いの気配を感じられる安心感がありました。
暮らし手のことを深く考えた設計の意図というのは、じんわりと伝わってくるものですね。私たち二人の夢を、私たち以上に想像してくれた「ちょうど良い」森暮らしが、ここにはありました。”

“そうだね。それから僕は、ここに暮らしてみたら、都会に暮らす楽しさにも改めて気づくようになり、人生の考え方が変わったように思います。
森に暮らすなんて、叶いそうもなかった夢でした。だけど、なんとか実現させて経験してみたら、この歳になっても、初めて知ることがたくさんあるんですね。何事も、一歩踏み出して考えてみると、新しい発見がある。今では、そんなことを考えるようにもなりました。”