MORINOIE STORY #

森の流れに、心を委ねて。

2019.07.30

「四季を巡る、美しい軽井沢」

朝4時の森、眠りから覚めた小鳥がさえずる頃。深い藍色の夜から、紺碧の山並みがそのありさまを浮かべ、朝陽が山の頂上を越えると、藍と碧に染められた風景に、七色の彩りが生まれていく。ネオンの灯りも都会の物音もなく、この丘から望むのは、日毎に彩りを変えるありのままの自然。

浅間山の裾野から観る八ヶ岳や蓼科山の連なりを眺め、“年に数回だった軽井沢への来訪が、いつからか、毎週になりました”と、やさしく笑う清澄仁史さんと佳乃さん夫妻は、四季を巡る軽井沢の美しさに、暮らしの愉しみを学んだと言います。

「10年ほど前、この場所で森の暮らしを始めた頃は、年に数回来るほどでしたが、今ではほとんど毎週通うようになりました。朝陽に照らされて一日のはじまりを迎え、薪割りをしたり、森の手入れをしたりと、手間のかかることが、どんどん愉しくなってしまって。時間がある時は、木曜の夜に軽井沢へ来て、金曜日に妻を迎えに行って、月曜の朝に新幹線で仕事へ行く、なんてこともありますね」
 
軽井沢での別荘暮らしに、たくさんの期待を持ち合わせたわけではなく、森暮らしのあれこれに、自然と夢中になっていったと言う仁史さん。そんな変化を振り返り、佳乃さんも言葉を添えます。

「鳥の巣箱をつくってみたり、植物のことを調べてみたり、冬には編み物をしてみたり。ここへ来たら、季節ごとの愉しみが不思議と思い浮かんできて、時間を忘れてしまいます。自分たちでは好きなことをやっているつもりでも、もしかしたら、軽井沢の自然がそうさせてくれるのかもしれませんね。気がついたら、毎年同じ日に、同じ暮らしをしていることもあるくらい」
 
季節のしらせに心を預けて、暮らしの支度をととのえる。めずらしい植物のことを図鑑で調べてみたり、ホタルがやってくる丘の下のせせらぎへ小径を拓いてみたり。そんな風にして、自然に寄り添う森暮らしを築いてきた仁史さんと佳乃さん。今では、小径に遊びにくるようになった動物たちのことを知ろうと、真新しい喜びを紡いでいます。

「“ふつうでおいしい”
食事の愉しみ」

「今では、軽井沢に通っているというよりは、東京に通っているという感覚かもしれませんね」
 
穏やかにつぶやく佳乃さんに続けて、仁史さんも話します。
 
「東京には、東京のおいしいものや新しい情報があります。それはそれで、やはり東京にしかない豊かさがありますから、都内に暮らしをもつことは、これからも続けると思います。最近は、都内のスパイスカレーのおいしさに惹かれて、本を買って勉強して、こっちで一緒につくってみたりもしています。ね、シェフ(笑)」
 
弾んだ声につられて、思わず佳乃さんも微笑みます。
 
「軽井沢のモリノイエに来ると、特別にこだわらなくても、“ふつうのいつもの”ごはんを一緒につくるだけでも、ごちそうになります。東京にいたら、“買いに行く・食べに行く”というたくさんの選択肢から選ぶことが愉しみですが、軽井沢に来たら、あまり色々と考えずに、ここでの時間を自分たちなりにつくることが、何よりの愉しみになっていますね」

佳乃さんは「軽井沢に来たら、軽井沢のスイッチが入る」とも言います。その言葉を聞いて、思い出したかのように仁史さんはつぶやきます。
 
「そういえば、東京の暮らしの延長線にはしない方がいいと思ったことがあったんです、なんとなくですけどね。だから、軽井沢には東京のものを置かないようにしています。軽井沢での暮らしを重ねながら、必要なものを必要と感じてから、少しずつ求めていくようにしてきましたね」
 
人に見せるわけでもなく、たくさんの友人を誘って豪華に振る舞うわけでもなく、軽井沢の暮らしに五感を委ねて、二人の愉しみを重ねてきた仁史さんと佳乃さん。二人のように、有り余るほどの豊かさを求めるのではなく、あるがままの自然に豊かさを知ることが、森暮らしの幸せとも言えるのかもしれません。

「都会暮らし、森暮らし。
ときどき旅」

多くの豊かさを求めることはなく、その時に感じたやりたいことや愉しみに心を弾ませる。ーーモリノイエで本を読む。海外の雑誌を参考に、自分で巣箱をつくってみる。森の手仕事をやってみる。かたちあるものを求めるのではなく、二人で過ごす「ひととき」をこの場所で重ねていく。そんな森暮らしのきほんは、旅を豊かに愉しむものさしでもあるようです。

「軽井沢にいる時は、千ヶ滝温泉に出かけたり、森を散歩したりはよくしますが、何かかたちあるものを求めるような時間は、あまりないかもしれません。旅行へ出かけた時も同じで、旅先で登山をしたり、サウナをやってみたり、ホテルでゆっくり読書をしたり。そういうことが好きですね」
 
悠然とした口調の仁史さんに、やわらかな笑顔の佳乃さんも、旅の愉しみとこれからの森暮らしへの想いを言葉にします。
 
「私たちが唯一、かならず旅先でやることは、めずらしいデザインのお酒を買うことです。荷物にならないように、ほんの少しだけですけどね。
だから最近は二人して“バーカウンターをつくりたいね”なんて話をしていますよ。“レコードプレイヤーを置いて、昔懐かしの音楽を聴きながら、のんびりするのもいいね”なんて想像しながら。
旅先では写真も撮らないので、見たことや感じたことを思い出しながら、ここでゆっくり言葉を交わす時間さえあれば、それがいいと思うんです。いつにしましょうかね」

都会と森の暮らし、ときどき旅。そんな日常を歩み、二人の愉しみを二人らしく享受していくこと。軽井沢の四季に心を委ねて、好きなことを知ること。ふっと気がついたら、いろんな愉しみに惹かれていた、という飾らない営みは、森への敬意とお互いへのやさしさに包まれていました。