都会と森の道中で #2

穏やかに

2018.06.11

仕事は少し早めのひと段落。電車にゆられて帰路へ着き、週末仕度をバックにつめこめば、行き先は今年でおそらく四度目の軽井沢。幸い天気はいつも晴れ。それだけでラッキーと喜びに弾む。どこまでも続く空の下、冬に芽吹きを眠らせた山は、すっかり新緑のグラデーション。緑が濃く見えるのは、六月の梅雨のせい。車窓を下ろすと、昨日の雨をふくんだ風から懐かしい匂いがして、かつての自分を思い出す。
 
もうすっかり、人生の折り返し。娘を大学に送り、息子は独り立ち。妻と交わす言葉は少なくもなかったが、喜びの瞬間はあたたかく、いつまでも記憶に焼きついているものだと知った。
 
時代もずいぶんと変わった。お気に入りの音楽も、美しいと心惹かれた光景も、スマホの中にたくさん詰まっている。昔はそれら一つひとつの驚きを丁寧に紡いでいたなんて尊く思うこともあるけれど、便利になったから丁寧でなくなったというわけではない。今は今で、お気に入りの音楽と、スマホの地図にただ身を委ねて、よしなしごとに考えを巡らせるひとときが、五感の深部を淀みなく解してくれている。
碓氷峠の岩肌を越えたら、車窓の風景はすっかり深い森。先着の妻と息子夫婦が待つモリノイエまであと少し。自分なりの心地よさを携えて、然るべき距離を流れゆく都会と森の道中が、止まらない日々に穏やかな余白を残していた。