軽井沢別荘建築の四季 #1

6月の軽井沢

2019.06.15

 6月、梅雨の軽井沢・矢ヶ崎山。東京から新幹線で1.5時間。澄んだ空気を肌に感じながら、軽井沢駅を後にして、傘ひとつで歩く道中では、目にすること耳にすることが、手放しで身体を包み込みます。葉のアーチをくぐると、わずかに雨をしのげるだけで、森に来たうれしさに心が弾んだり、ざーざーと鳴り止まぬ雨の音が脈拍と呼応していることを知ったり、山の傾斜を勢いよく流れる山水をおそろしく感じたり。だけどしばらくして身体が森に慣れると、雨の跳ねたテンポが、寄せては返す波のように、心の絡みを解いてくれます。静的であり動的な6月の軽井沢は、夏の新緑のパレードまであと少し、森をにぎやかにするまでの準備をしているようで、すっかりこちらを和ませてくれるのです。
 こんな雨の日には、〈軽井沢タリアセン〉で堀辰雄の「1412番山荘」やW・M・ヴォーリズが設計した「睡鳩荘」を観に行こうと、一度予定を組んではみるものの、薪に火をつけ、濡れた服を乾かし、本を読み始めてしまうと、そうもいきません。もう、腰がぴたりとソファから離れない。またにしようと、気まぐれまかせに読みかけの文庫本を広げていると、雫で輝く森が緑葉の灯りとなって、空間を照らし出す。だんだん日が沈み始めて、ページが藍に染まっていく。都会のグレーやネオンとはまったく異なる夕暮れは、いつ見ても、真新しいグラデーションが広がり、飽きないものです。と、気持ちのいい山荘暮らしを味わうほどに、平日の仕事が捗るわけではないのですが、明日のお昼は〈千ヶ滝温泉〉でもうひと休みしてから、明後日の新幹線で東京へ向かって、また仕事を頑張ろうと張り切ったりもしているのです。