軽井沢別荘建築の本棚05
「堀部安嗣の建築」堀部安嗣

2019.09.27

モリノイエ軽井沢 編集室

表参道と軽井沢のアトリエで、別荘や住宅の建築設計を中心に活動する私たち〈モリノイエ軽井沢〉は、“都会暮らし、森暮らし。”という新しい日本の暮らし文化をつくることを大切に、連載「軽井沢別荘建築の本棚」で、軽井沢にゆかりのある建築家やその作品、また活動の歴史などを記録した本を紹介していきます。

05「堀部安嗣の建築」
 
堀部安嗣
TOTO出版(2007)

日本を代表する建築家・堀部安嗣氏から、学ぶことは多い。建築を志す人なら一度は、氏の図面や建築、作品集と文・ことばに目を通したことがあるでしょう。私たちは「“都会暮らし、森暮らし。”という新しい日本の暮らし文化をつくる」ことを考えるなかで、堀部安嗣氏の建築観を、これから軽井沢の山荘を叶えたいと考えている人、建築に高い志をもつ人と共感したいと考えています。
 
その理由は、堀部安嗣氏が、ほとんどすべての建築において、森に五感を委ね、風景と自己を対峙させることを礎に、建築設計に向かっていることにあります。
 
本書で紹介されている建築をはじめ、数々の作品の所感で、「現場に何度も足を運びながら、期待と不安を抱えつつ、自問自答を繰り返した。ーーしかし無事に建築がたつと、切り倒さなかった大きな栗の木が、私の仕事を静かに見守り、私のすべきことをそっと教えてくれていたことに、気づかされたのである」という具合に、自然への敬意を言葉にしている堀部安嗣氏。その地に寄り添うかたちを試行錯誤しながら、創造しようとする姿勢・意識に、建築の原点があることを、教えられるのです。
 
とくに、本書で紹介されている〈軽井沢の家 (2002年)〉では、原初的な人の居場所を追求し、円柱の柱をあらわにした設計と、そんな地上階とは対照的に、半地下のテラスに太古の洞窟ような空間をしつらえたことで、原初的な心地よさに思索を深めたことが伺えます。

その姿勢に習うならば、軽井沢の別荘建築は、「どんな森に建築をするか」が、やはり欠かせないこともわかってきます。
 
考えてみれば確と当然のことであるものの、その上で、「どんな建築を創造するか」ということを考えない建築は、私たちが思っている以上に、この日本においては多いのかもしれません。
 
実のところ、土地探しは、数十年の間、軽井沢の土地で建築を考えてきた私たちと、不動産売買や価格のことを中心にやってきた人たちとでも、ちがいがあります。餅は餅屋ですから、信頼がなければ築くことのできない双方の理解と、本当の土地の読み方や知識に、私たちは時間をかけてきました。誠意ある不動産屋さんには熱意があり、そんな方たちと共に歩んできました。そこには人との出会いもありました。やはり時間のかかることでなければ、汗をかく仕事でなければ、本当にいい軽井沢の別荘建築はつくれないと言えます。
 
本当にいい建築を考える時、土地探しのことで困ってる人が、実に多いということを私たちは感じています。実際の建築を想像しながらでなければ、土地は選べないですが、都会の豊かさを享受する建て主であればなおのこと、実際にその土地まで足を運ぶのは、そう時間が許すことではありません。しかし、私たちはこれまでに、できるかぎり建て主といっしょに、土地探しから建築を考えることをしてきました。話は少し逸れましたが、堀部安嗣氏の建築観に学ぶなら、これからも私たちは、土地探しから建築を考えていくことを大切にしたいと思うのです。

最後に、堀部安嗣氏が、建築を志すようになったきっかけについて、
次回DIARYの特集でご紹介しています。本当にいい建築を考えた時、良心にしたがって、森に五感を委ねて設計するその姿勢に、建築の原点を思い出されるのでした。
 
 
(追伸:本書を蔵書している図書館は、全国にたくさんあるでしょうから、ぜひ一度ご覧になってみていただければと思います。こういう本を蔵書していることに、図書館の普遍があるように思える)