軽井沢別荘建築の本棚07
「オリーブの森で語りあう」
エンデ全集

2019.10.16

モリノイエ軽井沢 編集室

表参道と軽井沢のアトリエで、別荘や住宅の建築設計を中心に活動する私たち〈モリノイエ軽井沢〉は、“都会暮らし、森暮らし。”という新しい日本の暮らし文化をつくることを大切に、連載「軽井沢別荘建築の本棚」で、軽井沢にゆかりのある建築家やその作品、また活動の歴史などを記録した本を紹介していきます。

07「オリーブの森で語りあう」
エンデ全集
 
丘沢静也 訳
岩波書店(1997)

10月12日、長野でも大きな被害が出た台風19号。被害を受けられた皆さま、今も懸命に復旧に励む方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。
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モリノイエ軽井沢(株式会社クレア)
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今回ご紹介する「軽井沢別荘建築の本棚」は、軽井沢とは離れ、イタリアを舞台にしたある一冊の本をご紹介します。
首都ローマから車で1時間ほどのアルバーニ山地。オリーブの森とブドウ畑に囲まれた牧歌的な風景の中で、ある3人の人物が、食事を共にし、火を囲み、語り合った二日間の会話が収録されています。台本やテーマが決められてない場で、テーマは自ずと社会や政治、ファンタジーなど、いくつもの論点が散りばめられていきます。
そして、あるがままに3人の世界が交差していく言葉のバトンは、「よりよい社会とは何か?」という普遍的な命題の解を求めて、静かに橋渡しされていきます。なぜ現代社会では、「助け合いの経済」「個人の自由」「平等を保つ法」がゆらいでいるのか? など、現代社会を見つめ直す問いを私たちに投げかけます。
そんな現代への警鐘を鳴らす対談から、こうした対話を生む森暮らしが「人と人の対峙に何を生み出すのか」という想像を考えさせられる一冊でもあります。
 
さて、3人の人物についてですが、
 
中心となるのは、ドイツの童話作家ミヒャエル・エンデ、政治家エアハルト・エプラー。そして、劇場(コミュナル・コンタクトシアター)主宰のハンネ・テヒルです。
 
ミヒャエル・エンデは、童話「モモ」や「はてしない物語」の作者でありながら、社会や政治、自然と人の持続可能な在り方を世に伝えてきた人物です。1945年(当時16歳)に、徴兵を受けるも召集令状を破り捨て、ドイツとフランスの国境シュヴァルツヴァルトの森へ疎開。何人もの友人との死別を経験。終戦後に劇作家や俳優として、芸術がもたらす心の豊かさを求め続けるも無名の時代を経て、『ジム・ボタンの機関車大旅行』でドイツ児童文学賞で返り咲きます。そして、1973年に『モモ』、1979年に『はてしない物語』を出版。晩年は、長年連れだった妻のインゲボルグ・ホフマンに先立たれ、悲しみの淵を彷徨うも、ドイツ文学の翻訳家・佐藤真理子さんと再婚。日本との交友を深め、禅や能、弓道などにも傾倒し、「論理的思考の西欧に比べて、日本人が呪術的な話術・感性をもつ」ことに魅力を感じていきました。本書では、文化や芸術が、社会を変える可能性について、合理主義がもたらした現代のさらなる革新に何が必要か? などを語っています。
 
ドイツの政治家エアハルト・エプラーは、ドイツの社会民主党の重役として政治活動を続けてきた人物。高い地位にいながらにして、党利党略に左右されず、社会のさまざまな動きを根底から捉え直す政治家として、とりわけ若者に支持されてきました。彼は社会の隠されたプロセスを暴露し、国民に改めて考えさせる中立の姿勢で、より良い社会を真摯に見つめ直した政治家と言われています。
歴史的な社会運動や産業革命を紐解きながら、エンデが想像する「助け合いの経済」「個人の自由」「平等を保つ法」の持続可能なバランスは、本当に実現されるのか? とあえて鋭角な質問を投げかけ、問いをさらに深掘りしていきます。
 
そして、ハンネ・テヒルは、本書でもインターネットでも、あまり詳しい人物像が残されていませんが、政治や社会の問題を明確に反映させた劇場を運営してきた人物。芸術としてだけ理解される演劇ではなく、実際的に、刑の執行や住居不定者の援助、ボランティアによる地域の精神医療、老人福祉などをテーマに、直接的に社会課題を聴衆と共有する芸術を行なってきたとされています。そして本書の中では、芸術と政治の両方の側面を捉え、エンデの芸術的思考とエプラーの政治的思考を、ファシリテートしていきます。

そんな3人が交わした議論には、実にさまざまなテーマがあります。ひとつの論旨を伝えるメディアとはちがい、読者それぞれの汲み取り方に委ねている側面がかなり大きいです。いち早く簡単に手に入る情報が、必ずしも正しいとは限らない現代で、自ら本の扉を開き、彼らの対話に耳を傾けてみることで、なにか明日の答えが変わってくるかもしれません。今まで想像もしなかったような雲行きが社会に漂い始めている今、「右に行きすぎた左、左に行きすぎた右」とでも言えばいいのでしょうか、根源的な問題に立ち返り、両軸を見極める視野を養っていきたいものです。都会と森のコントラストもまたひとつ、将来を見据える鍵となると言ってしまうと、宣伝じみたダイアリーになってしまいますが(笑)。