軽井沢別荘建築の本棚06
「普通の住宅、普通の別荘」中村好文

2019.09.29

モリノイエ軽井沢 編集室

表参道と軽井沢のアトリエで、別荘や住宅の建築設計を中心に活動する私たち〈モリノイエ軽井沢〉は、“都会暮らし、森暮らし。”という新しい日本の暮らし文化をつくることを大切に、連載「軽井沢別荘建築の本棚」で、軽井沢にゆかりのある建築家やその作品、また活動の歴史などを記録した本を紹介していきます。

06「普通の住宅、普通の別荘」
 
中村好文
TOTO出版(2010)

家というものは、特別です。
人生において、何度目かの幸せな瞬間でもあり、大きな買い物でもありますね。
 
だからこそ、意外と大きな家をほしがる人も、少なくはありません。
 
でも、いつもそこにある風景として、自分の人生を休め、明日にはたらきかけ、寄り添い続ける大切なパートナーでもありますから、大きさや豪華さを、あまり求めないことが大切です。
 
建築家の中村好文さんの本書。美しい帯にはひと言、「普通でちょうどいい」と添えられています。この言葉に共感する人は、実に多いのではないでしょうか。私たちもそうです。
 
しかしそれでも、建て主や建築家を悩ませるのは、「ちょうどいい普通の建築」というものが、実に難しいということです(だからこそ、既成のプランを当てはめたような建築ばかりを進める設計会社が多いのも、仕方がないのかもしれませんが、私たちはそうありたくありません)。
 
若い建築家や作家なら、「喜んでもらいたい」「役に立ちたい」という気持ちが、前に出るでしょうから、肩の力が入りすぎることもあるでしょう。時間を重ねてきたプロの建築家なら、あらゆる制限の前に、苦悩するでしょう。
 
「普通でちょうどいい」とは、自分を鏡で写して、内面を知るようなことですから、自分のことほどわからないものですよね。そんな風に、建て主の身になって、言葉にはあらわれない声を汲み、豊かな森を読みながら建築することですから、実に容易ではないのです。

それでもやはり、住まいの基本は、その人にも、その土地や自然にも無理がないことなのです。
だから私たちも、「ちょうどいい別荘や住宅」というものを、ずっと求めてきました。
 
そんな想いを代弁する本書。軽井沢の別荘や山荘の紹介は、「小屋から家へ」の方が多く事例が掲載されていますが、まずは別荘や山荘を思い描いた時に、本書を読んでみるのは、私たちが考える「住まいの基本」、「“都会暮らし、森暮らし。”という新しい日本の暮らし文化」の根底を流れている想いと通ずるところも、私たちが中村好文さんから学ぶことも、たくさんありますから、本書からさらなる夢を膨らませてみるのもおすすめです。
 
さいごに、美しい光と紺碧の夕暮れの帯に、書かれている言葉を紹介します。

ーー私が無意識のうちに目指していたのは、
人々が目を瞠り、
誰もが話題にせずにはいられない「特別なもの」ではなく、
 
気張りもしないし、気取りもしない。
背伸びもしないし、萎縮もしない。
無理をしないし、無駄もしない。
 
それでいてまっすぐに背筋の通った
「普通のもの」でした。中村好文(まえがきより)
 
中村好文さんの言葉に敬意をこめて。