森の週末映画館 019「ザ・サークル」

2018.08.19

モリノイエ編集室

映画のワンシーンは
過去と未来に書き残された手紙のように、
大切な何かを教えてくれる。
 
モリノイエで観たい映画を
マイペースに紹介していく「森の週末映画館」。
どうぞお楽しみに。

019「ザ・サークル」

原題:The Circle
公開:2017年
監督:ジェームズ・ポンソルト
出演:エマ・ワトソン / トム・ハンクス 他
 
主人公のメイ(エマ・ワトソン)は、至るところに設置された超小型カメラで、自身のプライベートを24時間公開。その様子を、世界一のシェアを誇る「The Circle」というSNSサービスで公表し、莫大な量の他者との対話を繰り広げていきます。そして、多くの高評価を得て、フォロワーを増やし続けた結果、一躍有名人に。こうして彼女は、他者からの評価に飲み込まれてしまいます。
 
しかし、新たな可能性を見出した彼女は、たった数秒で他者のプライベートを垣間見れる「ソウルサーチ」というサービスを開発。ユーザーのスマートフォンカメラや小型カメラの映像と顔認証を駆使し、行方不明となっていた犯罪者の追跡に成功。しかし、善意の渦に隠されたこのサービスには、重大な欠陥が......。
 
原作は、近未来に待ち受けるSNSの光と影を描き、全米でベストセラーを記録した小説「ザ・サークル(ディヴ・エガーズ著)」。

「内なる自分との対話
顔を見合わせるひととき
大切な人と交わす本当の言葉」

インターネットは、私たちのコミュニケーションの距離を縮め、情報交換のスピードを加速してくれました。気になる音楽を選べば、類似するおすすめが表示される。好きなものを買えば、さらなるヒットがサイトをまたいで追いかけてくる。おすすめのレストランも、過去の既読をたよりに選ばれる......。実のところ現代を生きる私たちは、データ解析された自分と、常に対峙させられているのです。こうした革新的なテクノロジーとのより良い付き合い方は、今後ますます、私たちの課題となるでしょう。そんな現代の行く末を描いた本作には、私たちが考えるべき問いが散りばめられていました。
 
SNSサービス「The Circle」で他者からの評価と向き合い、自分を表現することに没頭するメイ。私生活を24時間公開し、ついには他者のプライベートを即座に中継するサービスも開発します。一方で、家族や友人との対話はなおざりに。そんな彼女は、膨大な情報の海を航海するほどに「内なる自分と向き合うこと」、「大切な人と顔を合わせて過ごすひととき」を失っていきます。
 
現代を生きる私たちは、メイと同じく、他者からの評価や言動、世界中のアイデアや膨大な情報の渦に巻き込まれています。おかげで、最先端のデザインやテクノロジー、見知らぬ世界の写真、音楽家の伝説的な演奏などを見ることができるようになりました。しかし、同時に、情報の波から離れて、たった一人で自分と対話することが、とても難しくなってきていると言えます。
 
「人はテクノロジーを得ると、失われた代償を忘れる」。これは、歴史が証明しています。
 
本当の私たちに必要なのは、自己を表現することよりも、人の役に立つことでしょう。メッセージを掲示することによって受ける代償や評価に自分を映すよりも、目の前の大切な人の声に耳を傾けることに、経験を注ぐべきであろうと思うのです。
 
例えば、軽井沢に暮らす先人たちは、都会の利便性も享受しながら、この森の中で過ごしてきました。たった一人で、内なる自分と対話し、大切な人と顔を見合わせて語り合う時間をもち、いつもとはちがうやさしい言葉で、明日の日本のことを語り合ってきました。彼らの「都会暮らし、森暮らし」とも言えるライフスタイルが、未来の私たちに、創造の原点を示しているように思います。
 
丁寧な対話を積み上げていく日々を。これからのテクノロジーとの付き合い方を考えさせる一作です。
 
それでは、また。
素敵な週末を。