人間が森を荒らすことも
自然の一部と捉え、
何ができるか考える。

小林清さん(53歳)
職業:キコリ

モリノイエ partners

Vol.01

モリノイエでは、繊細な樹木の伐採や剪定をお願いしています。

今回、お話を伺ったのは、木々の解体業を営む小林さん。
今どき珍しく、自らロープを巧みに操って木に登り、
枝を一本一本切り落とすといった繊細な手作業を得意とする、
まさに現代のキコリです。

この仕事を始めたのは、
娘が生まれた34歳のころ

大学時代から環境問題に興味を持っていました。が、そのときはこの仕事に就くことはまったく頭にありませんでしたね。建築を学んでいたこともあり、卒業後は設計事務所で働くなどしていました。しかし、環境問題に少しでも関わりたいという思いが日に日に強くなっていったんです。そこで、当時、環境問題への取り組みに力を入れている生協組合に転職。ただ、そこでも実際の仕事は環境問題とは大きくかけ離れていたこともあり、続けるかどうか悩むように。そして、今19歳になる娘がちょうど生まれたころ、私が34歳のときに森林組合の存在を知り、思い切って求人に応募したんです。とはいえ、最初に応募した森林組合には「鉈(なた)の使い方も知らない人は採用できない」と断られてしまいました(笑)。それでも諦めきれず、全国の森林組合に問い合わせてみると、現在所属している南佐久の森林組合から「来てみませんか」といううれしい返事をいただけたんです。このあたりの森は杉の木がなく、花粉症の妻が引越しを喜んでくれたことも後押しとなりましたね(笑)。そこから約20年、この仕事を続けています。

映画になった
「おくりびと」の感覚に近いかも

現在の仕事は、通信会社からの依頼で送電線の妨げになりそうな木や枝を伐採したり、建築会社の方から建設予定地に生える木を切ってほしいと頼まれたり、建て主の方から松ヤニが落ちるので枝を剪定してほしいと相談されたり。また、商業施設の近くで重機が使えないから、身体ひとつで枝木を切ることができる私にお願いしたいといった仕事もあります。昔、遺体を棺に納める“納棺師”という職業を題材にした「おくりびと」という映画がありましたよね。じつは最近、そのおくりびとに近い感覚を持って、仕事をしているなと思うことがあるんです。私たちが日々向き合う木々も生きていて、できれば切りたくない。でも、切らないといけないという状況だからこそ、丁寧に作業を進めていきたいんです。たとえば、登るためのロープを木に掛けるときはロープにチューブを巻くのですが、これには仕事道具を傷つけず長く使うためという目的とともに、できるだけ木自体が傷つかないようにという思いも含まれています。あと、枝を切るときはたいてい3回に分けて切るようにしていますね。まず、切ろうとする場所から少し離れた部分に上からと下から刃を入れて切り落とします。そうして枝を軽くしたうえで主幹近くの本来切りたい場所に刃を入れるんです。これを1度で切り落とそうとすると、枝の重みで表面の皮が向け、そこから木にばい菌が入っていきます。また、3回目の刃を入れるときも主幹から数ミリ離して切ることで、木が何年かの時間をかけて、自ら傷口をきれいにふさぐことができるようにしているんです。人間が傷口にかさぶたをつくる感じですね。


高いところで作業する日は、朝から夕方まで木の上にずっといることも。
昼食はパンやおにぎりをロープで運んでもらってすませる。木の上で読書を楽しむこともあるそうだ。

木を切ることで、
仕事が成り立ち、生かされている

ここまで丁寧に木と向き合う理由のひとつは、このミズナラの木は自分が生まれる以前から生きているから。そうした自然に対する畏敬の念に加え、私は木を切ることで、仕事が成り立ち、それによって生かされている。やはり感謝しないといけないと思うんです。ただ私自身のことでいえば、この仕事をするようになってから、極端なエコロジストではなくなりました。正直、この仕事を始める前のほうが、木を切るのはすべて自然破壊だと思っていましたから(笑)。それが最近は、人間が木を切る、森を荒らすという行為も自然の一部だと捉えるようになり、その中で自分に何ができるかを考えるようになりましたね。

答えは現場にある、
という言葉を大切にしている

また他にも、答えは現場にある、という言葉も日頃から意識しています。たとえば、下から見ているときは簡単に登っていけると思っていた木も、いざ上に登ろうとすると難しいケースがあったり。外から見たら一見ふつうの栗の木でも、切り倒すために幹に刃を入れてみると腐っていて中が空洞になっていることもあるんです。さらに、栗の木はもともと折れやすい性質を持っています。だから、家の近くで栗の木を切ってくれと頼まれると、いつも以上に細心の注意を払いますね。そうした木の種類に応じた感覚を身につけるためにも、現場をたくさん知っておく必要があると思います。ただし、失敗するなら山で。山で失敗するぶんには、いい経験で済みますからね(笑)。

この仕事と出会えたことは
運命かもしれない

また、今後の目標に関してですが…。じつは、私の木に登る技術はツリークライミングといって、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアから入ってきた技術がベースなんです。もともとは日本にはレクリエーションとして入ってきたものを講習で教わり、さらに仕事でも使える技術として学び直しました。そういう経緯もあって、私はときどき子供を中心にツリークライミングのイベントを開催したりしているんです。この活動は今後増やしていきたいですね。とくに、東日本大震災後に岩手県大槌町という町との出会いがあり、その地域の間伐のボランティアを行ったりしているんですが、最近その町のシンボルツリーにもなっている大きなケヤキの木が、防波堤工事のために伐採されるという話があるんです。そこで、地元のNPOの方々と協力し、ケヤキの木との思い出をつくるためのツリークライミングイベントを開催できたらと動いています。とにかく地元の人たちの笑顔作りのお手伝いがしたいですね。あとは、できるだけ長くこの仕事を続けたいという思いも持っています。この仕事は筋力、体力以上に技術が必要な仕事です。だから、力の抜き具合さえわかっていれば、70歳、80歳まで続けることもできます。子供のころから木を登るのが好きだったし、高いところからの眺めも好きだし。そんな私がこの仕事と出会えた運命を大切にしたいですね。

休日の過ごし方は?

子供が小さいときはよく出かけていたという小林さん。最近は薪割りをするなど、休みの日も木を切っているそうだ。「人の家の周りばかりきれいにして、自分の家の草刈や枝きりはおろそかになっているので、休みの日のほうが忙しく動いているかもしれませんね」と笑って答えてくれた。

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